お店の棚にズラッと並んだヨーグルト。
誰もが「どれを買おう」と悩むと思います。
CMなどで情報があふれる中、あなたが健康のために乳酸菌を摂ろうとしているのなら、ビフィズス菌入りにするか乳酸菌入りにするかは大きな分かれ目。
あなたに必要なのは一体どちらなのでしょう?
ここではビフィズス菌と乳酸菌の違いを解説した上で、ビフィズス菌のスゴイ効果と、どんな人にどちらが向いているのかを提案していきます。
ビフィズス菌と乳酸菌は同じ菌?
まずはビフィズス菌について紹介しましょう。
この記事のタイトルを見て、「ビフィズス菌と乳酸菌って違うよね?」と思った人、大正解です。
実は、学術的にいうとビフィズス菌は乳酸菌のグループには入りません。
そもそも乳酸菌とは「発酵によって糖類から50%以上の乳酸を産生すること」と定義された細菌のグループを指します。
例えばこんな感じ↓
C6H12O6(1分子のグルコース)→ 2CH3CH(OH)COOH(2分子の乳酸)+2ATP(2分子のアデノシン三リン酸)
ところが、ビフィズス菌は乳酸よりも酢酸の産生量が多いため、乳酸菌に該当しない細菌として分類されているのです。
同じように化学式で表すと、ビフィズス菌はこんな感じです↓
2C6H12O6(2分子のグルコース)→ 2CH3CH(OH)COOH(2分子の乳酸)+3CH3COOH(3分子の酢酸)+5ATP (5分子のアデノシン三リン酸)
乳酸よりも酢酸の方が多く作られる(=乳酸が50%未満)ことがわかりますね。
酢酸というのは調味料である「お酢」の主成分で、ニオイに敏感な人はビフィズス菌入りのヨーグルトからもお酢特有のツンとした香り(業界では“酢酸臭”といいます)を感じ取れるかもしれません。
…とは言っても、昨今のビフィズス菌入りヨーグルトはマイルド志向になっており、昔よりも酢酸のニオイが少ないタイプが主流です。
そして、近年、ビフィズス菌は人が健康を保つうえで非常に重要な働きを持っていることがわかってきました。
それは成長の過程でも顕著に現れており、一生のうちで最も無防備な赤ちゃんの時は、急速にビフィズス菌を腸内で増殖させることによって、その命を外敵から守っているほどです。
この辺の詳しい話はコチラで紹介していますので、ぜひご覧ください↓
それでは、なぜビフィズス菌が人の健康に大きく影響するのか、乳酸菌との違いを踏まえて解説していきましょう。
酢酸が効く
ビフィズス菌が作り出す酢酸には、乳酸よりも特に優れた効果が2つあります。
それは、
- 殺菌力の高さ
- 腸の保護作用
です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
殺菌力の高さ
日本人は昔からお酢の殺菌作用を保存食に利用してきましたが、それは酢酸がもつ並外れた殺菌力の高さが知らずと認識されていたからです。
現在では科学的に酢酸の殺菌作用の強さが証明されていますので、「一般財団法人 食品開発分析センター」のデータから、どのくらい強いのか紹介しましょう。
酢酸や乳酸などの“酸”には、コハク酸・リンゴ酸・クエン酸といった有機酸のほかに、理科の実験でお馴染みの塩酸などがあります。
これらを使って、それぞれpH5.0になるように水溶液を作ります。
「pH」とは水素イオン濃度を示す値で、pH7.0が中性、これよりも低いと酸性、高いとアルカリ性になります。リトマス試験紙が赤になったり青になったりする、アレです。
同センターでは、pH5.0という同じ酸性度にした場合、これらの酸がBacillus megateriumという細菌の増殖をどの程度抑制するかという実験を行いました。
その結果、抑制する強さは
酢酸>乳酸・コハク酸>リンゴ酸>酒石酸・クエン酸>塩酸
の順となり、最下位の塩酸では抗菌作用がほとんど認められなかったそうです。
では、なぜこのような違いが現れるのでしょうか?
実は、簡単に表現すると、酸は水の中では2つ以上の物質に分かれ(解離)、溶けやすくなります。
解離するとイオンとなって細菌などの表面にくっつきやすくなり、こうなると簡単には菌の中に入ることができません。
しかし、解離しない酸は菌の細胞膜を通過して体内に侵入することができ、入り込んでから解離することで、菌体内のpHを下げることができます。
人と同じように、菌の体内では多くの化学反応が行われており、特に酵素を介した反応は最適なpHが保たれていないと行われません。
菌体内のpHが低下する(酸性に傾く)ことによって菌は生命活動を維持できなくなり、死滅あるいは増殖できなくなるというわけです。
そして、酢酸は解離しにくい酸なのです。
このため、高い抗菌作用を示したわけですね。
この実験で使用した菌には病原性がありませんが、腸内の悪玉菌が分類されるグラム陰性菌にも同様の効果があるとされています。
でも、もしかしたら「酢酸に高い抗菌作用があるのなら、お酢を飲めばいいんじゃない?」という意見が出てくるかもしれませんね。
しかし、有機酸である酢酸は、口から摂取すると栄養源として消化吸収の対象となります。つまり、腸まで酢酸として到達できないんです。
ですから、腸の中で直接的に酢酸を作ってくれるビフィズス菌の存在が重要になってくるんですね。
腸の保護作用
そしてもう1つ、酢酸の優れた作用が「腸の上皮細胞を保護する」というものです。
腸は水分や栄養素を体内に取り込む吸収器官で、ここの細胞が正常に働くことは栄養面だけでなく、病気から体を守るためにも重要です。
食中毒を引き起こし、最悪の場合は死に至らしめる『腸管出血性大腸菌O157』はニュースでもよく耳にする細菌ですが、この菌による感染死を予防する効果がビフィズス菌の産生した酢酸にあることが確認されています。
O157はベロ毒素を産生し、これが大腸の上皮細胞にある粘膜に損傷を与えるのと同時に、体内に吸収されて腎臓など大腸以外の臓器にも影響を及ぼします。
慶應義塾大学の福田真嗣特任准教授の研究によると、ヒト大腸上皮細胞株とO157を用いた実験で、酢酸の濃度が高いほどO157による上皮細胞死が抑制されることが明らかになったということです。
さらに、酢酸によって上皮細胞を守ることができると、O157による感染死を予防できることがマウスによる実験で確認されています。
これは、上皮細胞が健康であると毒素が体内に吸収されにくくなるために、他の臓器に及ぼす重篤な影響(溶血性尿毒症症候群)を予防することができるからだそうです。
また、別の研究報告(理化学研究所、東京大学、横浜市立大学)では、ビフィズス菌が作り出した酢酸が病原性大腸菌O157の感染を阻止することが確認されているそうです。
前述の通り、酢酸は経口摂取しても消化・吸収されて腸に届くことはありませんから、腸の中で酢酸を作り出してくれるビフィズス菌の存在は非常に有用なわけなんですね。
棲みつくところは大腸
さて、善玉菌や悪玉菌などの腸内細菌は、腸の中ならどこでもいいというわけではありません。
人でも賑やかな都会が好きな人・のんびりした地方が好きな人といるように、彼らにも生息地の好みがあるのです。
そして、腸内細菌の“棲みやすさ”の指標は“酸素の量”である場合が多いのです。
実は、ビフィズス菌と乳酸菌の大きな違いの1つに、この“酸素に対する抵抗性”があります。
一般的な細菌の多くは「好気性」といって酸素がある状態を好みますが、乳酸菌の多くは「通性嫌気性」といって、酸素があっても生きて行けるけれど、できれば少ない方がいいというタイプです。
ところがビフィズス菌は「偏性嫌気性」で、酸素があると生きていきにくい細菌なのです。
体内の消化管でも最も奥まったところにある腸は、口や胃などに比べるとかなり酸素の少ない世界になっています。
しかし、腸だけで比べても、胃に近い方にある小腸よりも、さらに奥にある大腸の方が酸素濃度は低くなっていることがわかっています。
これがそのまま腸内細菌の棲みやすさに直結します。
つまり、一般的な乳酸菌は小腸に、酸素が苦手なビフィズス菌は大腸に棲みついているというわけです。
ビタミンもたくさん作る
腸内の乳酸菌は私たちが摂取したビタミンCなどを利用して、ビタミンB群や葉酸ビオチンなど多くのビタミン類を生成します。
とくにビフィズス菌はビタミンB2やB6、ビタミンKを合成することが知られています。
私たちの体が必要とする栄養素は食事から供給されるものと思いがちですが、実は体内で作られる分も利用しています。
厚生労働省が定める栄養摂取基準の中では、腸内細菌が体内で生成する分を差し引きして目標摂取量を掲げているものもあるんですよ。
これについては後述しますね。
ビフィズス菌と乳酸菌 どちらを選ぶ?
それでは、こういった両者の特徴を踏まえて、どちらを選べばいいのでしょうか?
結論から言うと『どちらも摂るのが正解』です。
なぜなら、ビフィズス菌も乳酸菌もお互いが“もちつもたれつ”の関係で、どちらかだけでは腸内フローラのバランスは保てませんし、そのための役割をそれぞれが担っているからです。
でも、もう一歩ふみこんで言及するのであれば、体の状態や目的によって“今はこっちの方がいい”という選択肢がないわけではありません。
ここでは、乳酸菌またはビフィズス菌をおすすめしたいケースについて紹介しましょう。
“乳酸菌がおすすめ”のケース
特に乳酸菌を摂ってほしいのは、
- 疲れ気味の人
- 肌荒れしている人
- 自分のビフィズス菌を増やしたい人
- 機能性乳酸菌の効果が欲しい人
です。
まず、①の人は活動を支えるのに必要なエネルギーを十分に供給できていないか、蓄積してしまった疲労物質を取り除けない状態になっている可能性があります。
②の人は肌での新陳代謝が滞りやすいために老廃物をうまく排出できず、ターンオーバー(生まれ変わり)がスムーズに行われていない可能性があります。
これらの症状に効果があるのがビタミンB群です。
ビタミンB群は糖質や脂質などの栄養素をエネルギーに変換するときに必要で、これが不足すると体がエネルギー不足になってだるさ・倦怠感などの疲れを感じてしまうわけです。
また、ビタミンB群には皮膚細胞の再生を促進することできめ細かい肌を作ってくれます。
では、なぜビフィズス菌ではなく乳酸菌が適しているのでしょうか?
実は、乳酸菌の多くが棲んでいる小腸の役割は“栄養素を分解・吸収すること”です。
小腸の内側は絨毛と呼ばれる無数の突起物がヒダのように並んでおり、表面積を大きくすることで少しでも多くの栄養素を吸収できるようになっています。
ですから、小腸の中で乳酸菌が作り出したビタミンB群を吸収することができ、疲労回復や肌トラブルの改善に役立てられるというわけです。
一方のビフィズス菌もビタミン類を産生しますが、彼らが棲みついている大腸の役割は水分とミネラルの吸収が中心。
小腸で分解・吸収しきれなかった栄養素の一部は大腸からも吸収されますが、吸収機能のメインはあくまでも小腸なのです。
ですから、ビフィズス菌が大腸で産生したビタミン類はあまり吸収できず、疲労回復や肌の改善に役立てることは難しいため、小腸に棲む乳酸菌の方が利用に適しているというわけです。
また、人の腸には2~4種類程度のビフィズス菌が棲みついていると言われていますが、これらを含めた腸内細菌は縄張り意識が高く、後からやってきた細菌が新たに棲みつくのは難しいと言われています。
そうなると、今いる菌を何とかして増やすことが確実な方法となるのですが、細菌を増やすには彼らの好みにあったエサを与えるのがいちばんの近道です。
そして、ビフィズス菌の場合、最適なエサが乳酸菌の菌体や、彼らが作り出すビタミン類やアミノ酸なんですね。
ですから、③の人のようにビフィズス菌を増やしたいという目的で乳酸菌を摂ることは、実は究極の目的であるともいえるわけです。
④の機能性乳酸菌については、その乳酸菌が特化して持つ作用があるので、当然のことですが、その効果を得たければその菌を取らなければなりません。
機能性乳酸菌は各メーカーから多様な商品が発売されていますので、自分に欲しい機能をもった商品を選んで摂るようにしましょう。
“ビフィズス菌がおすすめ”のケース
ビフィズス菌の摂取をおすすめしたい人は
- お腹の調子が悪い人(上皮細胞の強化)
- アレルギー反応を抑えたい人
- 根本的にビフィズス菌を増やしたい人
- 機能性ビフィズス菌の効果を得たい人
です。
①の「お腹の調子が悪い人」には下痢しがちな人、便秘になりやすい人と両方のタイプがいると思いますが、どちらも便の排出がうまくいってないためにおこる症状です。
これを改善するには食物繊維などをとって便の硬さなどを調整する一方で、大腸の健康を保つことも大切です。
大腸の内壁は粘膜で覆われており、非常にデリケートにできています。
例えば、ストレスがかかると下痢をしたり、場合によっては出血したりしてしまうほど、敏感なんですね。
そんな大腸を保護してくれるのが、ビフィズス菌の作り出す酢酸です。
酢酸の保護効果によって大腸が守られ、お腹の調子が整いやすくなるというわけです。
②の「アレルギー反応の抑制」に大腸が関係していることは、近年になって明らかにされてきた研究です。
今までも腸における免疫の獲得は注目されてきましたが、これが正常に機能せず、本来無害である物や自己に対しても免疫による攻撃が起こってしまう「アレルギー反応」の仕組みに、腸内細菌が関わっているということがわかってきたというものです。
簡単に説明すると、免疫細胞であるT細胞がアレルギーを起こす物質に攻撃しないようにコントロールする「制御性T細胞」というのが存在していることがわかり、大腸でこの細胞を生み出したり増やす時に腸内細菌が深く関与していることが明らかにされたのです。
この腸内細菌は大腸に存在するクロストリジウム属の細菌で、この菌が棲みついていないアレルギー体質のマウスに抗原を与えると、重篤なショック症状(アナフィラキシーショック)を起こしてしまうのですが、クロストリジウム属を含む細菌群を投与すると反応が抑制されるそうです。
また、別の研究では酢酸を投与された妊娠マウスから生まれた仔マウスでは、ハウスダストによるアレルギー性気管支疾患の症状が抑制されたという報告があります。
腸内細菌はお互いが持ちつもたれつの関係であることは既に述べましたが、ビフィズス菌がその中の重要な構成メンバーであることは言うまでもありません。
間接的にクロストリジウムをサポートすることでアレルギー反応の抑制にも関与し、ビフィズス菌が産生する酢酸によってもアレルギー症状の緩和に効果があるとのことですから、ビフィズス菌の働きにも期待が高まっているというわけです。
ただし、ビフィズス菌が腸内フローラに占める割合は年齢と共に小さくなっていくことがわかっており、赤ちゃんの時は90%を超えていた占有率も、成人するころには10%ちょっとまで低下するといわれています。
また、人によって棲みついているビフィズス菌の種類が異なるので、たまたま棲みついた菌があまり健康に貢献してくれていないというケースも考えられます。
そこで、③の「ビフィズス菌を増やしたい人」や、④の「機能性ビフィズス菌の効果を得たい人」は、積極的に腸まで届くタイプのビフィズス菌を摂ることがおすすめです。
ビフィズス菌は胃酸に弱いので生きて大腸にたどり着ける確率は非常に低いと言われていますから、カプセルに包まれたタイプや生存性の高さが確認されている菌種を選んで摂ると良いでしょう。
ヨーグルトから選ぶなら、こちらの記事も参考にしてみてくださいね!
中には血中の脂質量を改善したり、寿命を延ばしたりすることが確認されたビフィズス菌もいます。
もちろん、すでに棲みついている腸内細菌との相性や腸内環境の問題がありますから、摂ったビフィズス菌が永久的に棲みついてくれるわけではありません。
これは乳酸菌についても同じことです。
継続的に菌を摂りつつ、菌の棲みやすい環境を整え、適したエサを与え続けることがとても大切です。
この点についてはこちらの記事も併せてご覧くださいね。
正しい乳酸菌の知識を学び、あなたに美容健康ライフを!!!