広告やCMでも目にする機会が増えた“植物性乳酸菌”。
でも、一般的な乳酸菌とどこが違うのでしょう?
今回は、植物性乳酸菌がもつ優れた特徴や、何に効くのかといったメリットを紹介する一方で、そのデメリットについてもお伝えします。
毎日の食生活に、ぜひ役立ててくださいね!
植物性乳酸菌とは?
私たちに馴染み深いヨーグルトやチーズに使われる乳酸菌は、“動物性乳酸菌”と呼ばれ、その栄養源が動物由来の“乳”であることに起因しています。
一方で、植物を栄養源として生育する乳酸菌もいます。
これを“植物性乳酸菌”として区別しているのです。
…といっても、これは学術的な分類ではありません。
あくまでも便宜上の呼び方で、乳酸菌などの腸内細菌学の分野では正式な名称としては取り扱われていないのです。
そもそも“乳酸菌”という呼び方も、糖を分解して50%以上の乳酸を生成する菌の総称です。
本ブログでもその点を踏まえ、植物性乳酸菌を「植物を栄養源として生育できる乳酸菌」として話を進めていきますね。
実は、植物性乳酸菌と人間との関りは長く、数千年前から食料を保存する技術として利用され、動物性乳酸菌による発酵食品の歴史よりも古いといわれています。
日本人に限定して言うと、日常的にヨーグルトやチーズを食べるようになってからまだ100年たっていませんが、植物性乳酸菌との付き合いは長く縄文時代からという説があるくらいです。
それもそのはず。
日本人なら誰もが口にしている“味噌”“醤油”“漬物”“酒”といった食品は、植物性乳酸菌の発酵によって作られたものだからです。
植物性乳酸菌による食品は世界中で見られ、韓国のキムチ、中国のザーサイ、ドイツのザワークラウトなどがあります。
いずれも伝統的な食品ですね。
植物性と動物性の違い
それでは、植物性乳酸菌と動物性乳酸菌の違いは何でしょうか?
次の表にわかりやすくまとめてみました。
【植物性乳酸菌と動物性乳酸菌の比較】
植物性乳酸菌 | 動物性乳酸菌 | |
生息場所 | 植物 | 動物の腸内、乳 |
栄養要求性 | こだわらない | ワガママ |
仲間意識 | あまりない | 強い |
過酷な条件(塩分や糖分) | 生育可能 | 生育不可 |
では、詳しく説明しますね。
ワガママな動物性乳酸菌
動物性乳酸菌の生育場所は乳。
高栄養でバランスのよいものしか好みません。
ちょっと考えてみてください。
乳って動物の赤ちゃんを育てるものですよ。
生まれたての命をはぐくむパーフェクトな食べ物です。
栄養面だけでなく、赤ちゃんの胃腸に負担がかからないように組成もほぼ均一で吸収しやすい液体です。
これが一番の”お気に入り”っていうんですから、けっこーなワガママです。
他の組成がほぼ同じでも、糖濃度が変わっただけで動物性乳酸菌は生育に影響が出ます。
もちろん、ビタミンやらミネラルやらも、きちんと含まれていないと育ってくれません。
し・か・もです。
他の菌が住んでいるところでは育ちにくいんです。
シャイな面もあり!
さ・ら・に、自分たちが棲んでいるところに他の菌がやってきても、そう簡単に仲間に入れてあげるようなことはしません。
動物性乳酸菌とはグルメで、シャイで、仲間意識の強いワガママなヤツなんです。
タフな植物性乳酸菌
一方の植物性乳酸菌は、葉っぱの表面など、自然界のいたるところに棲んでいます。
塩分や糖分の濃度が高くても低くても生きていけます。
保存性を高めるために、人間がドサッと塩を入れても、原料を丁寧に殺菌していなくても、生き抜いてくれるわけです。植物性乳酸菌は他の菌がいても気にしない、サバイバル生活も可能というタフなヤツなんですねー。
ですから、栄養源も植物なら問題ありません。
まして、人が食べる植物は柔らかいものが多いですよね。
白菜や茹でた大豆など、植物性乳酸菌にとってはご馳走なハズ。
生育環境を整えなくても発酵してくれる植物性乳酸菌は、科学が発達していない時代の人間にとって、利用しやすい菌だったわけです。
メリット
植物性乳酸菌の最大のメリットは、この”タフさ”によって「生きたまま腸まで届きやすい」ということです。
もちろん、動物性乳酸菌の中にも、生きて届く菌はいます。
ですが、それはほんの少しで、一説によると動物性乳酸菌の99%は死んでしまうといわれています。
これは、私たちの消化管から分泌される胃酸や胆汁酸などの消化液に含まれる“酸”の影響です。
多くの動物性乳酸菌は、強い酸性の生育環境では生きることができません。
自分が産生した乳酸によっても、酸性になりすぎると死んでしまうくらいです。
その点、植物性乳酸菌は、前項で触れたように、環境の変化に強いという特徴をもっています。
胃酸や胆汁酸などによる酸性の環境にも耐え抜き、生きたまま腸までたどり着くことができるのです。
植物性乳酸菌“ラクトバチルス・プランタラム”は、動物性乳酸菌の3倍も消化液への耐性に優れていることが知られています。
こうして腸までたどり着くと、植物性乳酸菌も、動物性と同じように”善玉菌”であるビフィズス菌を増やして、大腸菌などの悪玉菌をやっつけてくれます。
その効果は非常に高く、例えば、植物性乳酸菌“ペディオコッカス・ペントサセウス”を摂取し続けると、ビフィズス菌が2倍に増えたというデータもあります。
出典:「腸内細菌学雑誌 第16巻 第2号 別冊」
腸内細菌叢が整うと、腸の機能は高まり、消化吸収が促進され、結果的に便秘や下痢などを防いでくれます。
また、漬け物のように野菜と共に摂取する機会が多い植物性乳酸菌は、食物繊維も同時に摂れるというメリットがあります。
食物繊維は腸に刺激を与えて排便を促すだけでなく、ビフィズス菌の優れたエサとなり腸内環境の改善に役立つものです。
漬物は水分が少なくなってカサが減っていることから、生野菜などよりも食物繊維を一度に多く摂取しやすいのです。
効果
それでは、植物性乳酸菌の効果とは何でしょうか?
もちろん、動物性乳酸菌と同じように、
・整腸作用
・免疫力アップ
・美肌
・抗アレルギー作用
といった点に効果があります。
このうち、特に高い効果が確認されているものについて、紹介しましょう。
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HSK201株
この菌は、ヨーグルトメーカーである日本ルナ社が保有する植物性乳酸菌です。
ドイツの伝統料理“ザワークラウト(キャベツの漬物)”から分離された菌で、酸に強く、胃液に対しても強い耐性を持ち、生きて腸まで届き働くことがわかっています。
さらに、日本ルナとグループ会社である日本ハム(株)が研究したところ、優れたアレルギー改善作用を有することが確認されました。
アレルギーの発症には、白血球の1つ「ヘルパーT細胞」の1型(Th1)と2型(Th2)のバランスが深く関連しているといわれています。
ふつう、両者はお互いのバランスをうまく保っていますが、アレルギー状態ではTh2が優位になることでバランスが崩れ、アレルギーと関連のあるIgEが増加し、アレルギー症状が起こります。
このバランスの改善効果が、HSK201株にあることが確認されたのです。
花粉症もこのバランスの崩れによって引き起こされますが、ヒトへのHSK201株摂取試験を行ったところ、症状が改善されることがわかりました。
試験内容は、花粉症のシーズンにHSK201株を含む飲料と、プラセボ飲料(そっくりだけどこの菌株を含まないニセモノ)を毎日8週間飲んでもらうというものです。
そして、被験者の自覚症状(くしゃみ、鼻水、眼の痒み、涙目など)が緩和されたことがわかりました。
また、プラセボ群では血液中に花粉症の原因物質となる“IgE”の増加が確認されましたが、HSK201株摂取群ではIgE増加の抑制が見られ、Th1/Th2のバランス改善も確認されました。
このことから、この菌株は花粉症の症状を緩和する作用があるとして、第38回日本免疫学会で発表されています。
さらに、興味深いことに、他の植物性乳酸菌の多くは腸まで到達しても、そこに棲みつくことはできず、いずれ便と共に体外へ排出されてしまうのですが、この菌はヒト腸管上皮細胞にしっかり付着することが確認されたのです。
腸の滞在時間が長くなるということは、善玉菌の増殖や腸内環境の改善への効果が高まることを意味します。
HSK201株なら、比較的長い期間、その恩恵を受けることができますね。
ラブレ菌(Lactobacillus brevis KB290)
植物性乳酸菌の中で、最も有名な菌株はこの“ラブレ菌”ではないでしょうか。
ラブレ菌はカゴメが保有する菌株で、便秘・美肌・免疫力アップなどに効果を示すことが確認されています。
中でも、注目したいのはインフルエンザの予防効果!
これは、栃木県那須塩原市の小学生2,926人を対象に行われた大規模調査で確認されたものです。
ラブレ菌を含む飲料を登校日に摂取していた子供たちのインフルエンザ罹患率が15.7%だったのに対し、同一地域内で摂取していなかった子供たちは23.9%という結果が出たのです。
4人に1人の罹患率が、6~7人に1人へと下がったわけですね。
受験生、お試しあれ!
デメリット
タフで健康増進効果もバッチリの植物性乳酸菌ですが、やはりデメリットもあります。
塩分の摂りすぎ
ぬか漬け、キムチ、味噌、醤油…どれもしょっぱいものばかりですね。
植物性乳酸菌は塩分濃度の高い食品中に多く存在しています。
これを中心に食べていると、塩分を摂りすぎることになってしまうのです。
世界から見ても、日本人は塩分の摂取量が多い国民です。
世界保健機関(WHO)は、世界中の人の食塩摂取目標を1日5グラムとしていますが、2015年に1g引き下げて改定した厚生労働省「日本人の食事摂取基準」では、まだ8g(男性)となっており、とても世界水準に達しません。
実際は、この厚労省の基準ですら達成できていないのが、私たちの食生活の実態なのです。
ですから、植物性乳酸菌を漬物などの食材を中心に補給しようとするのは、塩分(ナトリウム)の過剰摂取につながり、生活習慣病などの危険性が高まってしまいます。
含有する菌数の不確実性
例えば、乳製品は“乳等省令”という法律によって、乳酸菌の数がヨーグルトなら1㎖あたり1000万個以上、乳酸菌飲料なら100万個以上と決められています。
各メーカーが保有する菌株を使って行った検証も、菌をどのくらい摂取しているかが明らかなので、「この商品なら1日1個食べれば効果が期待できる」という目安量がわかるわけです。
ところが、漬物や味噌などの調味料には、含有する乳酸菌の規定がありません。
キムチではヨーグルトとほぼ同様の1gあたり1000万個といわれていますが、仮に、この菌数を含んでいなかったとしても処罰の対象になりません。
また、メーカーも菌数を保証しているわけではないのです。
こうなると、「植物性乳酸菌を食品からどれくらい摂ればいいのか」という目安が出せないわけですね。
植物性乳酸菌はこう摂る!
摂り方の不安はありますが、冒頭で触れたように、私たち日本人は植物性乳酸菌との付き合いが長い民族です。
この点を考えると、動物性よりも植物性乳酸菌の方が、私たちの体質に合っているのでは…という説も提唱されています。
いずれにせよ、植物性乳酸菌は有用な菌であることに間違いはありません。
しかし、摂り方を間違えれば、健康に害を成すことにもなりかねません。
そこで、植物性乳酸菌の摂り方としておススメしたいのは
- 漬物、味噌などの食品
- 植物性乳酸菌入りのヨーグルト、乳酸菌飲料など
- 植物性乳酸菌サプリメント
この3つを満遍なく摂る
ということです。
1つに偏れば、食塩や糖分、食物繊維などの摂取量が増えすぎたり減りすぎたりしてしまいますね。
ですから、バランスよく摂ることが健康への近道といえるでしょう。
もちろん、植物性乳酸菌のエサになる動物性乳酸菌の摂取も忘れないでくださいね!
質問でもいいでしょうか?
植物性乳酸菌の効果的な摂取方法と注意点を教えてください。
TVでキャベツを薄切りにして塩を混ぜ、ビニールの袋に入れ重石を乗せただけでした。それで効果(菌が増えるとか)があるのでしょう?
前立腺癌の治療中で牛乳などの乳製品の摂取を禁じられています。その代わりの乳酸菌として植物性のものでスーパーマーッケットなどで購入しやすいものを探しているのですがよいアドバイスをお願いします.
水キムチがオススメです。
塩分も控えめで、食物生乳酸菌が大量に摂取出来ます。それ以前に美味しいです。
しかも簡単に作れます。
http://www.comecome-happy.com/archives/syoku/kenkourecipe/mizukimuchi/
乳製品以外で乳酸菌の摂取をご希望…ということですね。
植物性の乳酸菌であれば、キムチがおすすめです。
野菜由来の食物繊維も豊富ですし、手軽にどこでも入手できますね。
ただ、塩分が多いので、治療中の方には体の負担になるかもしれません。
ご自分でドイツのキャベツ発酵食品「ザワークラウト」を作る方法もあります。
作り方はとても簡単で、基本は清潔な容器に刻んだキャベツと2%程度の塩を入れ、室温で数日~1週間おくだけです。
キャベツに付着している植物性乳酸菌と酵母菌が発酵してくれますよ。
キャベツにはグルコシノレートという物質が含まれ、消化によってイソチオシアネートに変わりますが、
これにガンの抑制効果があることが確認されているそうですよ。
他にも、ドラッグストアで売っているサプリメントの中には、植物性・動物性に限らず、乳製品不使用のものもあります。
最近はキャンディーや即席みそ汁(永谷園)など、乳製品以外でもでいろんな種類の乳酸菌が摂取できるようになっていますから、持続しやすい商品を見つけるのが良いと思います。
一日も早いご快癒をお祈りいたします。