「ローフード」
「酵素食品」
…これらは食品の酵素による助けを借りた健康法として、
ダイエットにも利用されてきました。
“人が利用できる酵素の量は生まれた時に決まっているので、
それを食品から補えば自分の酵素を節約できる”として推奨されたからです。
でも、これは全部ウソ!
ぜーんぶ嘘なんです。
この記事では、“酵素”についての正しい知識と利点、“酵素サプリメント”の活用法について、科学的根拠に基づいた情報をお伝えします。
これが酵素のウソのネタ元だっ!
多くの酵素食品(以下、サプリメントを含む)の販売サイトなどで、冒頭の理論を良く見かけませんか?
これは、エドワード・ハウエル氏が執筆した『酵素栄養学』(1946年)をもとに、1980年代に一般向けに編集・発行された書籍によって知られるようになったものです。
(エドワードさん)
これらの本では、「酵素を生命の維持に不可欠な栄養素の一つ」として捉え
「一生で使える酵素の量には上限があるため、酵素が消耗されすぎると病気の原因となり、寿命は縮む」とされています。
この理論に基づき、食品から酵素を得るためにできるだけ生で食べること(ローフード)が推奨され
現在では食品を発酵させて酵素が豊富になった状態のドリンクや、それを粉末または液状にしてサプリメントにしたものが各種販売されています。
この理論には多くの誤解と誤りがあるのです。
そもそも『酵素栄養学』はハウエル氏自身の実験や検証によるものではなく
他の研究からの引用と考察から構成されたもので、恣意的な解釈や論理の破綻などがみられると指摘されています。
『酵素栄養学』に基づく理論のココがウソ!
酵素栄養学に基づく理論により、多くのHPで宣伝されている記述をあげてみましょう。
現在の分子生物学を中心に、科学的見解を併記しておきますね。
《酵素栄養学的理論と現代科学に基づく認識の対照表》
酵素栄養学的理論(昔) |
現代科学(今) |
|
①酵素の定義 | 栄養素 | 触媒 |
②生涯の生成量 | 絶対量が決まっている。 | 絶対量は決まっていない(再利用・再合成可能)。老化による減少はある。 |
③酵素の状態 | 生きた酵素・死んだ酵素 | 活性・失活・変性 |
④酵素の体内への補給 | 食品から可能。 | 食品からは不可能。 |
あれれ?大きく食い違っていますよね。
そうなんです、ハウエル氏が執筆した時代から、科学は大きく進歩しているのです。
1980年代に出版された本には、新しい事実を載せるべきだったと思うのですが…。
わかりやすく解説しましょう。高校の化学・生物で習ったことも出てくるので、「そういえば、そうだよね…」と思い当たることもあると思います。
①酵素の定義
多くのサイトで酵素を栄養素として捉えているものが見られます。
でも、酵素は栄養素ではありません。
栄養素とは「炭水化物(糖質・食物繊維)」「タンパク質」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」です。栄養学的に言えば、酵素はタンパク質の一種に含むことができますが
ビタミンやミネラルのように独自の機能性をもったものではないのです。
では何なのか…と言いますと、生体内で合成された「触媒」なんです。
ん?なんだか化学っぽくなってきましたね。
触媒とは、化学反応をスムーズに行うための助っ人みたいなものですが、特に生体内で合成された触媒として働く物質を“酵素”といいます。
私たちの器官や細胞では常に様々な化学反応が行なわれていて、“消化”や“代謝”も酵素の触媒作用の結果といえます。
②生涯の生成量
酵素栄養学では生物が一生で生成できる酵素の量は決まっていて、それを消費してしまうと病気や寿命に影響するとされています。
また、一部のサイトには、酵素の総量が決まっているため、「消化に酵素を使ってしまうと代謝に使える酵素の量が減ってしまい、太りやすくなる」と書かれています。
でも、これには科学的根拠が全くありません。
酵素は消費するものではなく、使い回しができるものです。
酵素は酸素やミネラルなどの原子・分子を別の物質に供給することで触媒として働きますが、なくなるわけでなく、使われた酵素に血液などから再び原子・分子が供給されると、また触媒として機能できるのです。
永久不滅…とはいきませんが、何度でも繰り返し使える物質なのです。
また、劣化などにより酵素が少なくなると、遺伝情報に基づき再合成されます。
最新の分子生物学によると、酵素の合成はその種類ごとに遺伝子によって個別にコントロールされていることがわかっています。
なので、「消化酵素を使ってしまうと代謝酵素が足りなくなる」というのは完全に否定できますね。
③酵素の状態
これも多くのサイトで見かける表現なのですが“生きた酵素”や“酵素が死んでしまう”というものがあります。
誤解を招く表現なのではっきり言っておきますが、酵素は微生物のような生き物ではありません。
ですから“生きる”“死ぬ”といった表現は、比喩であっても正しくありません。
あえて言うなら“活性化した酵素”、“失活”もしくは“変性”した酵素と言うべきですね。
酵素には反応性が最も高まる温度等の条件があります。
温度は35℃~40℃が一般的です。動物の体温と一緒ですね。
酵素は体内で一番機能しやすいように生成されているのです。
この温度外では活性が失われるため、化学反応が進みにくくなります。
この酵素の状態を失活と言います。
このように、酵素は生命体ではないので、存在して(生きて)いる状態でも活性化していたり失活していたりするわけです。
前述しましたが、酵素はタンパク質でもあるので、一度高温にさらしてしまうと温度を下げても元に戻りません。
卵と一緒ですね。
生卵を茹でたり焼いたりすると固まって、冷やしても元の状態には戻りませんね。
肉や魚も同様です。
このタンパク質の性質を不可逆的変化といい、同様の意味で簡易的に「変性」という場合もあります。
④酵素の体内への補給
酵素ドリンクやサプリメントを使っている人は、これを目的にしているわけです。
でも、これが酵素にまつわる一番の間違いかもしれません。
私たちが口から食品として酵素を摂取しても、それはタンパク質として受け入れられます。
つまり、肉や魚と同様に消化器官でアミノ酸に分解されるわけです。
酵素を摂取したからと言って、体内の酵素生成量に変化が起きることは確認されていません。
酵素は必要な時に必要なだけ生成されているからです。
そもそも、代謝を行う酵素よりも消化のための酵素が優先されるという点も科学的に証明されていません。
なので、“消化酵素を節約すれば代謝に酵素が回されて痩せやすい体質になる”という説明には無理があるといえますね。
これらの誤解を与える表現を行った酵素サプリメントの販売者に対し、アメリカのFDA(食品医薬品局)は科学的根拠に乏しいとして警告を与えたという事実もあります。
酵素を摂る正しい意義
酵素に関して間違った記述が溢れているのは事実です。
ここまで述べてきたように、酵素の生成量が決まっているので、消費してしまうと病気や寿命にあるというのは大きな間違いです。では、酵素を摂る意味は全くないのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
酵素入りの食品を摂る意義は別のところにあるのです。
酵素は一生を通じて生成され続けます。
でも、老化と共に生成量が減少していくのは事実です。
このことが化学反応を滞らせ、それが体調不良や病気に関係しているのは間違いないからです。
では、具体的に酵素を摂るとどのようなメリットがあるのでしょうか?
酵素の本当のメリットはこれだ
- 酵素食品には栄養素が豊富
- 酵素食品の原材料が消化・吸収しやすい状態になっている
- 体内で生成される酵素の材料となる可能性がある
それでは、これらのメリットについても少し補足して説明しましょう。
酵素食品はドリンクやサプリメントなど形態は様々ですが、多くは微生物の発酵の過程で生成された酵素を含んだものです。
「生」タイプを除き、この酵素は製品化されるときに微生物を殺菌するために、熱処理を受けます。
中には60℃に耐えうる酵素もありますが、ほとんどがこの工程で変性してしまい、触媒として機能できなくなります。
ただ、この中には発酵によって生成された栄養素(アミノ酸やタンパク質など)が豊富に含まれています。
また、元の原材料が発酵によってある程度分解されており、非常に吸収しやすい状態になっています。
熱処理前の酵素の働きによって分解もされているので、途中まで消化された状態で摂取することになり、私たちの消化の負担を助ける効果もあります。
さらに、口から摂取した酵素食品は、消化器官でアミノ酸に分解されますが
このアミノ酸が血液を介して細胞に届けば、私たちが生成する酵素の元になる可能性もあります。
つまり、酵素の触媒機能は失われていても、豊富な栄養素が摂取でき、酵素を生成する際の材料となり、予め分解されていることで私たちの胃腸の負担を和らげるという大きなメリットを得られるのです。
これらのことが私たちの健康維持に関連して、「酵素を摂ると身体の調子が良くなる」と感じているわけです。
酵素はサプリメントで摂ろう!
では、酵素を効率よく摂取するにはどうすれば良いでしょうか?
ここまでの酵素の特徴と科学的事実を元に考えると、次のような製品を選ぶのが良いでしょう。
- 製造に使われた微生物・原材料の種類が多いもの
- 発酵期間が長いもの(熟成されたもの)
- 原材料の安全性(農薬・品質など)
- “生きている酵素”“生酵素”などはあまり問題ではない
- 手間がかからず、毎日続けられること
どういうことなのか、説明しましょう。
微生物はそれぞれ発酵で生成できる物質が決まっています。
なので、微生物の種類が多い方が生成される物質の種類も増えるわけです。
同様に発酵される物質が違えば、精製される物質も異なってきますので、原材料の種類も多い方がいいでしょう。
そして、その発酵期間が長いほど分解は進み、私たちが消化・吸収しやすい状態になります。
また、酵素食品の多くは野菜・果物・野草などの植物素材を発酵したものです。
よって、これらの安全性が確かなものが良いでしょう。
濃縮された製品が大部分ですので、特に農薬などには気をつけたいものです。
前述の通り、口から摂取すれば酵素も普通の食品同様に消化・吸収されるので、「生」かどうかはあまり問題ではありません。
それよりも長くのみ続けられることの方が大切です。酵素食品は発酵によって、ちょっと飲みにくい風味をしているものもあります。
ローフードならともかく、酵素ドリンクやそのペーストなどは独特なニオイがあるため、苦手な人も多いのではないでしょうか?
以上のことを考えると、酵素はサプリメントで摂る方が栄養的・健康的な価値が高く、手軽で持続性があるのでおすすめと言えます。
そもそも野菜を食べるよりもはるかにお財布に優しいです 笑
酵素サプリメントの効果的な摂り方
酵素サプリメントは基本的にいつ摂っても問題ありません。
消化を促すために、多めの水と一緒に飲みましょう。
ただし、「生」タイプの場合は食事の前が良いでしょう。
“酵素が「生」かどうかは問題ではない”と書きましたが、胃で消化を受ける直前までのわずかな時間は「触媒」として機能することができます。
この効果を少しでも求めるなら、食べ物が消化され始める直前に飲むのがベストです。
このとき、熱いものを一緒に摂ると酵素が変性してしまうので、気をつけてくださいね。
さいごに
さてさて酵素食品の真実の姿、いかがでしたか?
酵素サプリメントはとても有意義な健康食品です。
なぜなら、酵素サプリメントは酵素を補給するものではなく、体内のバランスを整える栄養素を含み、酵素の生成を促すものだからです。
解釈が間違っていても酵素が健康に影響を与えることに変わりはありませんが、サプリメントの選び方には大きく影響してしまいます。
この記事を読んで、正しくサプリメントを選んでいただけたら嬉しいです。
酵素サプリの真偽を知りたく、このブログにたどり着きました。様々な酵素の文献、エドワード氏の本も読み、氏の書かれた物にはだいぶ都合の良いバイアスがかけられているとも感じているところでした。
2つの点に関して、ソースを教えていただきたくコメントをしました。
1点目は、文中の「酵素を摂取したからといって、体内での酵素産生量が増えることはない」というのは、具体的に、どの研究機関の調査によるものでしょうか?
2点目は、「消化酵素を節約する事で代謝酵素への移行がなされることに対してアメリカFDAがサプリメント会社に注意勧告した」とありますが、具体的にいつのことでしょうか?また、FDAのサイトに行けばそれを見つける、確認する事は可能でしょうか?
以上2点、さらに酵素サプリのことについて勉強したく、教えていただけるとたすかります。
お正月間でご質問に気づきませんでしたため、遅くなってしまいました。すみません。
ご返答をしていきますのでご参考にしてください。
1点目:
文中の「酵素を摂取したからといって、体内での酵素産生量が増えることはない」というのは、具体的に、どの研究機関の調査によるものでしょうか?
〈回答〉
これはサイト内でも触れていますが、酵素生産量が増えない理由は、体内では酵素がただのタンパク質と認識され、消化の結果、アミノ酸に分解されてしまうからです。研究機関の調査というよりは生化学の基本原理ですので、敢えて研究の対象にはされていません。
酵素には“基質特異性”という性質があります。酵素とその酵素が分解するもの(基質=栄養素)の間には“カギ”と“カギ穴”の関係があって、特定の酵素は特定の基質としか反応しないのです。
予防接種で利用する抗原抗体反応も同じですね。酵素の場合、例えばペプシンやトリプシンといった酵素は、タンパク質やペプチド、アミノ酸(いずれもタンパク質の分解物)が有する特異的なアミノ酸残基と呼ばれる部分の結合を切断(加水分解)しますが、糖質や脂質にはアミノ酸残基がないので分解できません。一方で、α-アミラーゼという酵素はデンプン(糖質の1種)を加水分解しますが、タンパク質や脂質には作用しません。
このように、酵素は特定の部分を持つ物質を基質として認識し、作用する触媒です。
タンパク質を分解する酵素ならば、基質が牛肉であれ魚であれ酵素であれ、アミノ酸残基をもつタンパク質であるならば分解してしまうのです。
この分解されたタンパク質(=アミノ酸)を用いて酵素が再合成されている可能性はありますが、原料となる特定のアミノ酸を選択的に用いて酵素を合成することは不可能でしょう。
もしできるのであれば、多くの疾患がこの世から消えてなくなるはずです。
「選択的な再合成」は不可能ですが、酵素は栄養的に価値の高いアミノ酸に分解されるわけですから、健康には寄与していると考えられるでしょう。
2点目:
「消化酵素を節約する事で代謝酵素への移行がなされることに対してアメリカFDAがサプリメント会社に注意勧告した」とありますが、具体的にいつのことでしょうか?また、FDAのサイトに行けばそれを見つける、確認する事は可能でしょうか?
〈回答〉
補足させていただきます。
これは、ご質問の「消化酵素を節約する事で代謝酵素への移行がなされることに対してアメリカFDAがサプリメント会社に注意勧告した」のではなく、販売者の“酵素サプリメントを摂取することで健康に大きな効果がある”という主旨の誤解を与える表現やFDA承認工場で製造しているという虚偽の広告に対し、FDAの基準に違反しているとして警告を与えたものです(2003年1月28日)。
具体的な内容については下記サイトをご覧ください。
http://www.quackwatch.com/02ConsumerProtection/FDAActions/mpfda.html
FDAはこの警告文で“消化酵素が代謝酵素の節約に繋がる”という点を明記して否定したわけではありませんが、この商品の広告内容に関してアメリカの学者が異議を唱え、記事になっております。具体的な広告内容が掲載されておりますので、併せてご覧いただくとよろしいかと思います。
http://www.quackwatch.com/01QuackeryRelatedTopics/PhonyAds/mp.html
ご丁寧な回答ありがとうございます。
英文サイトまでつけていただき、助かりました。